2022年09月05日(月)
『The Paperback Art』のお知らせ [イベント]
MOTOYA Book・Cafe・Gallery(東京都初台)にて行われている展示『The Paperback Art』に扉や・西イズミも参加しています。文庫本をテーマにした展示です。私はいちおう「豆本の扉や」なので、張り切って製本するぜ!と文庫本をハードカバーに仕立てることにしました。
問題は何の本にするかです。本の内容やテーマで選ぶ素材や色合い、見返しなど全てが変わってしまうからです。最初は「猫の本かな〜」と安直に考えていたのですが、これが意外と中々ピンと来るものがない。「じゃあ食べ物か!」と探すも、好みの文庫本は装丁も好きだったりして、仕立て直す気になれず。なんかないか。迷った末に、最近些細なきっかけで読んでみた、森鴎外「高瀬舟」がいつまでもひっかかり、後に没後100年だと知り、こりゃー何かの縁だね!と決定。そうなるとラベルは版画(を加工する)、飾り枠をつける、見返しもなんか模様を入れる…と、ひとつひとつ各パーツの着想が生まれてくるのでした。
さて「高瀬舟」とはどんなフネなのか。これは罪人を遠島にすべく京都から大阪まで乗せていく舟なのです。大抵は親族や知人と別れ、悲しみに暮れる罪人を監視することとなる役人。通常は鬱々と役目をこなすのですが、なにやら今宵の罪人は動じていない。むしろハレバレとして見えるわけです。日々の家庭内ストレスを抱えてモヤモヤしていた役人、動揺します。こいつは一体…?!
一種の「おそろしい子…!(※『ガラスの仮面』を読んでください)」ストーリーなんですが、罪人が話し出すストーリーも、役人が内心に抱える家庭の話も、どこまでも本人視点でしかないので、深読みしようと思えばいくらでも出来てしまいます。疑い深い私は本当かなー?嘘(思い込み)かなー?と斜に構えて読み進めましたが、それでも、弱者がそれ故に幸せをささやかにしか感じることができない社会というものの貧しさ(これは今もです)に憤りや悲しさを感じるのでした。
その後、タイミングよく時代劇専門チャンネルで実写版『高瀬舟』が放送されまして、張り切って観ましたら、自分の思ったのとはかなり違う聖人のような罪人で、いやむしろこっちが正統な解釈か?!と怯みながら観ました。役人は前田吟さんです!残念ながら最後までピンとこない作品でしたが、川沿いに生えているヤナギの木がなにかいい風情で、見返しや飾り枠に使うことにしました。
ちなみにこの話、朗読するとすごく心地よい文です。物語に入り込んで感情たっぷりに読むとかなり楽しいです。北島マヤ(※『ガラスの仮面』を読んでください)にひとり芝居にしてほしい。
というわけで、初台のMOTOYA Book・Cafe・Galleryにてお手に取っていただけたら嬉しいです!
Posted by 西イズミ
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