2007年01月20日(土)
映画「それでもボクはやってない」 [観る]
公開初日の初回に近所のシネコンにて。
既に宣伝されまくっていますが、痴漢の加害者にされてしまうフリーター男性の映画です。
何もしていないのに警察に引き渡され、刑事に恫喝され、またたく間に犯人に仕立て上げられていく前半、「何もしていない」と言えば言うほど拘留され続け、主人公の周囲の人々も戸惑い始める中盤、どんなに地道な証拠を重ねても「被告」である主人公に圧倒的に不利な裁判が続く、後半。
この映画はつまり、ずーっと暗くて重くて息詰まるのだ。
それでも面白いのは、なぜか。
1・多くの資料・取材、それらを動かすための膨大な時間がぐっと圧縮された、力ある脚本だから。
2・巧い役者が湯水のように使われ、その魅力が画面中にゆきわたっているから。
1は、それゆえにすさまじい粘着力を保ち、観た後長時間話すネタが尽きない。
2は、特に前半の本田博太郎(この人、異様にチャーミング)、中盤の山本耕史(華やかで性格も良いキャラ。見ていてホッと救われる)に顕著であるが、思い出していくと、母親役のもたいまさこ(出過ぎない、完璧なお母さん)、裁判官の正名僕蔵(顔がすごくいい。ベスト七三ニスト・オブ・ザ・イヤー)、小日向文世(血も涙も"ある"ことを感じさせつつ冷徹で素晴らしくうまい)、弁護士・役所広司(ファイルが似合うのです)、瀬戸朝香(ほれぼれするスーツ姿)、田中哲司(この人をもっと観たい!と思った)、刑事の大森南朋(髪型、表情のヤな奴らしさに唸る)、検事の尾身としのり(視線がねちっこくて好き)芋蔓式になっていく。何よりも主演・加瀬亮は圧倒的なハマり具合。普通の人を普通らしく演じて魅力的。不思議ちゃんじゃないところがいい。
たぶん、もっとドラマチックに作ることはいくらでも出来たでしょう。もしそうしていたら、この溢れんばかりのモヤモヤ感はなく、いろいろメンドクサイことは映画の隅に置いてけぼりにした爽快な一本になったに違いありません。
なるべくそうしなかったことによって、この映画は客席と地続きのグレーな世界になりました。しかし、どこかに巨悪がいるから、グレーなわけじゃないのです。警察のひと、司法のひとが全員正義の味方ではないように。
ラストシーンの主人公の独白は、意志が立ち上がってゆく姿が見えてこころよい。
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Posted by 西イズミ
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